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斬殺覚悟で志士をやり込めた女郎の一言とは

伊藤博文らと尊王撰夷運動に参加し、維新後、新政府参与となり外交、財政通として活躍した井上聞多(井上馨)。
彼には若かりしころ、なじみの女郎でお里という女性がいました。若い彼は、御殿山に建設中だった諸外国の合同公使館を焼き討ちした前夜も、お里の部屋を訪れています。
ところがそそっかしい井上は、こともあろうに、たどん(炭の粉を固めた燃料)にそっくりの焼き玉(爆弾)をお里の部屋に置き忘れてしまったのです。
翌日、これに気がついた井上があわててとりにもどると、なんと、お里が例のたどんを火鉢に入れようとしているではありませんか。
まっ青になった井上が「馬鹿なことをするな」とさけぶと、お里は「たどんを火鉢に入れるのがなんで馬鹿なんですか」と切り返す。井上は、ついに「それはただのたどんじゃない」と秘密をバラすハメになりました。
井上は思わず刀に手をかけました。志士が仲間を裏切って女に大切な秘密をバラすなど許されることではありません。あわれ、お里は斬殺されることに……と思ったそのとき、彼女は、
「あなたも天下の志士などといいながら気の小さいことでございます……だいじな武器をお忘れになるようでは心細いかぎりだし、なじみの女郎を信じられないようでは大きな仕事はできませぬ」
と気丈にも苦言をいってのけたというのです。
女郎が血気盛んな志士をやりこめてしまった、という前代未聞の逆転劇が演じられたのです。

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