羽織姿であらわれた落語家が高座に座って話し始めると、まず例外なく、話の途中で羽織を脱ぎます。熱くなって脱いだというわけでもなさそうですし、邪魔ならはじめから脱いでくればいいのに、なぜわざわざ客の前で羽織を脱ぐのでしょうか。
じつは落語家は話をしながらも、舞台のそでのほうへ投げた羽織の動きに注意を向けています。その羽織が高座のそでから片付けられるか、片付けられないかで、大きく意味が変わってくるからです。
前座の人が高座のそでから手を出して羽織を片付けたら、つぎの出番の芸人のスタンバイができている、という合図になります。落語家は自分の噺が終われば、あいさつをして高座を降りればいいのです。
しかし、いつまでたっても羽織が片付けられなければ、つぎの準備がまだできていないということ。その落語家はつぎの準備ができるまで、高座で場をつながなければならないのです。
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