就職活動といえば、みんなきまったようなリクルートファッション。誰もが、それまで自由にしていたヘアスタイルをきっちりまとめ、さっぱりした面持ちで就職試験に臨むものです。
ところが、昭和56年の秋、当時某私立二流大学4年生だったS君は、なんとか自分の個性をいかしたまま就職活動をしたいと考えました。
そこで、S君のトレードマークのヒゲもリーゼントカットもそのままに、革ジャン、革ズボン姿で、スーパーや広告代理店、衣料卸業など、無名の小さな会社をつぎつぎと受けました。
しかし、やっぱり彼のこの試みはどこにも受け入れられず、全部不合格のまま、ついに師走になってしまったのです。12月といえば、もう学生の募集をしている企業もほとんどなく、彼は途方にくれていました。
そんな矢先、ある自動車販売会社で募集があり、最後のチャンスと受験しにいったのですが、そこも競争相手がいっぱい。
信念を曲げず、例の格好をしていたS君でしたが、少々不安になり、化粧品店に走って、シェービングクリームとカミソリを買い、あわてて会社のトイレでヒゲをそりはじめました。
ところが、半分しかそらないうちに、S君の面接の順番がきてしまい、しかたなく彼は顔半分ヒゲだらけ、という奇妙なスタイルのまま、面接試験に臨むハメになってしまったのです。ところが人生、どう転ぶかわかりません。
もうダメだ……と落ちこんでいたS君のもとに、後日合格通知が届いたのです。そして、その合格理由が、なんと「宴会用にピッタリ」ということだったのです。
ヒゲ半分の不幸が、大どんでん返しをうんだS君。不幸中の幸いとはこのことでしょうか……。
ラストチャンスで合格した2流大学生のウィット
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