1886年、リオデジャネイロのオペラ劇場。まだ19歳の青年トスカニーニは、その劇場でチェロを弾いていました。イタリアうまれの大指揮者トスカニーニは、もとは若くて無名のチェリスト(チェロ演奏者)にすぎませんでした。
それが突然、指揮される側から指揮する者へ、立場が逆転する運命の日がやってきました。その日、プッチーニの『アイーダ』が上演される予定になっていたのですが、どうしたわけか指揮者が突然降りてしまうというハプニングが起きました。指揮者がいなくては演奏もままなりません。楽員の推薦で、指揮者の役がトスカニーニにまわってきたのです。
彼が推されたのは、指揮者としての才能があるかもしれないと期待されたわけではなく、じつはトスカニーニは強度の近視で、自分のパートのチェロだけでなく、すべての楽譜を暗譜していたからでした。
オペラは大成功をおさめ、無名の若者は指揮者としての名声を得るきっかけをつかみました。
とっさのピンチが生んだ楽員の機知が、トスカニーニの弱点を生かして成功させてしまうとは、誰も予想できなかったでしょう。
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