ロンドンのトーマス・ロッジという24歳の男性が、恋人にフラれたことに絶望し、橋の上からテムズ川に身を投げようとしました。
ところがそのすぐ近くで、うら若き女性が同じように飛びこもうとしているではありませんか。彼女の名はエレン・デビッド。銀行の美人秘書だが、頭取との不倫が頭取夫人にバレて、銀行を辞めさせられそうになっていました。それにたいする抗議として「狂言自殺」をはかろうとの心積もりなのです。
「やめるんだ!」
死のうとしていた自分のことはそっちのけで、トーマスが走りよると、エレンは一瞬の差で川のなかへ。無我夢中で、トーマスも川のなかへと飛びこみました。
勢いにまかせて、飛びこんだのはいいのですが、じつは彼は泳げません。流されながら思わず助けを求めると、先に飛びこんだエレンが泳ぎよってきて、トーマスを引きあげてくれたのです。
この出来事が世間に知れると、雑誌で、あるいは新聞で、トーマスを非難したり、中傷したりする投書が続々送られてきました。
みじめな笑い者……彼を評すればこうなるでしょうか。
ところが、悪いことはそうはつづかないもの。なんと、あのエレンがまたしても救いの手をさしのべてくれたのでした。トーマスとの結婚を決意したというのです。
ほどなくトーマスは、彼女との甘い結婚生活にはいります。エレンが頭取からもらった手切れ金で、レストランを開いて……。冥途へ旅立つはずが、美人の妻を得てレストランのオーナーに。
人間、そう簡単に死んではいけないという教訓であります。
失恋苦に身投げした男が死の淵で掴んだものとは
(Visited 745 times, 1 visits today)
Comments are closed